令和5年度 埼玉県特別活動研究会 研究主題

 多様な他者と協働する力を育む特別活動

1主題設定の理由

マスクの着用が個人の判断となり、約3年間のコロナ禍での生活に大きな変化が訪れようとしている。「新しい時代の学校教育の実現」これは、現在の日本の学校教育に課せられた大きな使命である。コロナ禍の前に戻ることを目標にするのではなく、コロナ禍を経験したからこそ見えてきた学校教育の在り方について我々教師は考えていかなくてはならない。また、GIGAスクール構想により一人一台端末が整備され、ICTを活用することで、オンライン学習等による「学びの保障」と、主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善といった「学びの充実」が進められている。そのことは、「令和の日本型学校教育」が掲げる個別最適な学びと協働的な学びの実現に向けて着実に歩みを進めていると言える。

一方で、令和4年度の全国学力・学習状況調査では、「学校に行くのは楽しいと思うか」の質問に「当てはまる」と回答した児童生徒が約5割となり、昨年度と同様に低い結果となった。また、小中学校の不登校の児童生徒は、前年よりも約5万人増加し、過去最多となった。これらの結果は、友達との触れ合いや関わり合いが制限されたり、学校行事等が削減されたりしたことなどが一因であると考えられる。しかし、それと同時に改めて特別活動の意義が見直されたのも事実である。他者との関わりが希薄となっている今こそ、人と人とをつなぐ特別活動が果たす役割は大きい。子供たち一人一人にとって学校が、楽しく、居心地のよい魅力ある場所となるためにも、子供たちが他者と協働することを活動の中心とする特別活動の充実が必要であると考える。

また、現代の社会では、自分とは異なる考え方や価値観を受け入れることができず、他者と距離をおこうとする風潮も見られる。インターネットやSNS等の普及は生活を便利にしてくれている一方で、匿名で対面せずに画面上で簡単にやり取りできてしまうことから、相手を安易に批判してしまうという現状もある。しかし、異なる考え方や価値観との出会いこそ、自分の考えを広げるきっかけとなるはずである。このような現状を受け、学校教育においても、多様な他者や価値観を尊重することが求められている。今こそ、同じ空間で時間を共にすることを通して、互いの感性や考え方等に触れ、刺激し合うといった「リアルな人間関係」の形成が必要である。さらに、違いを受け入れ、異なる意見を認め合い、生かし合って活動することは、よりよい人間関係を築き、他者と協働しながら未来を拓く力の育成にもつながる。この点からも、自分も他者も大切にし、協働する経験を積み重ねることは重要であると考える。

本会では昨年度、「多様な他者と協働する力を育む特別活動」を研究主題に掲げ、特別活動と協働する力の関係や、多様な他者と協働する力を育むための指導と評価の方法について研究を深めた。その成果として、①育むべき資質・能力が明確になったこと、②協働する力を育むための取組や指導の方法についての工夫、改善ができたこと、③特別活動が他者を理解し、協働する力の育成につながることの3点が明らかになった。その一方、課題として、①次の実践につなげていく自己や他者による評価の在り方、②系統性を考え、小中連携の視点に立った特別活動の指導の在り方、が確認された。

以上のことから、前年度の研究の成果と課題を踏まえ、より効果的な指導と評価の在り方について、さらに研究を深めていくために、研究主題を前年度と同様に「多様な他者と協働する力を育む特別活動」と設定した。

2研究の目標

○多様な他者と協働する力を育むための指導と評価の方法について明らかにする。

「多様な他者と協働する力」とは、「協働するための基盤となる力」を含め、以下のように考えられるが、どのような力が必要なのかについて、さらに研究を進めていく。

・人によって考え方や価値観に違いがあることが分かる

・自分の考えをもち、相手に伝えることができる

・他者の考えを受容したり、他者の立場に立って物事を考えたりすることができる

・目標を理解し、達成するために他者と協力することができる

・よさや可能性を発揮し合い、高め合うことができる

 

3研究の内容

研究を進めるにあたり、次に示す2つの内容を中心に、専門委員会ごとに研究の視点を設け、それぞれの実践において、身に付けさせたい資質・能力を明確にし、その育成のための手立てや方法について研究を深めていく。

(1)多様な他者と協働する力を育むための指導計画

子供たちの今の実態と将来の姿を見据え、年間や学期、あるいは、各実践の中で、発達の段階に応じた活動を展開していくための指針となる指導計画について研究していく。以下は、そのポイントである。

① 「人間関係形成」「社会参画」「自己実現」の視点を踏まえた指導計画を作成する。

② 多様な他者と協働する力について明確にした指導計画を作成する。

③ 発達の段階を考慮し、学年間の系統性やつながりを意識した指導計画を作成する。

 

(2)  多様な他者と協働する力を育むための指導と評価の方法

指導については、集団活動のよさを生かしながらも、事前・本時・事後それぞれの活動における実践上の留意点にも目を向けていく。また、評価については、一人一人の変容を見取るために、自己評価に留まらず、よりよい相互評価の方法にも重点をおいて研究していく。以下は、そのポイントである。

① 育成を目指す資質・能力を明確にする。

② 一人一人が集団の中で多様な他者と協働することができる具体的な手立てを工夫する。

③ 学年間や活動間のつながりを踏まえた指導と評価の方法を工夫する。


なお、今年度は課題にもあった次の活動や学年へのつながりを明確にした指導と評価の在り方について研究を深めたい。義務教育である9年間を見通し、小中の系統性を意識しながら指導と評価を行うことで、他者と協働しながら未来を拓く力の育成につなげたい。その際、必要に応じてICTやキャリア・パスポートの効果的な活用の仕方についても研究していく。

学校の魅力とは、「関わる楽しさ」や「学ぶ楽しさ」を実感し、人として成長できることではないだろうか。今、学校の魅力が問われている。このことを我々教師は改めて重く受け止め、今一度真剣に考えなければならない。子供たちは、学校を含めた社会の中で、様々な人と関わりながら学び、その学びを通じて、自分の存在が認められることや、自分の活動によって何かを変えたり、社会をよりよくしたりできることを実感する。「なすことによって学ぶ」を方法原理としている特別活動の充実が、今の学校、そして社会に求められている。特別活動の理念を共有し、基礎基本を大切にしながら実践を積み重ねるとともに、子供たちに確かな資質・能力を育成するための指導を持続可能にしていくことが求められている。それはまぎれもなく今である。

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〈過去の研究主題〉
 令和4年度研究主題 「多様な他者と協働する力を育む特別活動」
 令和3年度研究主題 「よさや可能性を発揮し合い、確かな資質・能力を育む特別活動」
 令和2年度研究主題 「よさや可能性を発揮し合い、確かな資質・能力を育む特別活動」
 令和元年度研究主題 「新学習指導要領における特別活動の展開~集団や社会の形成者としての見方・考え方を働かせる実践を通して~」
 平成30年度研究主題 「新学習指導要領における特別活動の展開」
 平成29年度研究主題 「豊かなかかわりの中で自尊感情を高める特別活動~基礎・基本を踏まえた集団活動の実践を通して~」